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2009年10月16日 (金)

映画「麦の穂をゆらす風」と『佳人之奇遇』

 日本で有名なアイルランド人というと小泉八雲ラフカディオ・ハーンでしょうか。近ごろは日本国内でアイリッシュ・パブアイルランド特産の黒ビールや伝統音楽やダンスを楽しんでいる人もいるようです。
 この様なことを知ったのは数年前で、それまではIRA、アイルランド紛争とかニュースの中のイメージしかなかったです。それが明治の小説からアイルランドに興味をもち、この国の苦難の歴史を知りました。
 
 アイルランドはじゃがいもの大飢饉(1845~1852)で人口が160万人も減ったのです。それには700年もの間この国を支配していたイギリス政府の責任もあるといわれます。
 アイルランドで独立戦争が起きたのは日本でいえば大正時代半ばで、麦の穂をゆらす風は反イギリス独立運動の抵抗歌の題名です。

 英語でなく、アイルランド語で自分の名前を名乗った青年が英国の治安警察部隊に殺される―――アイルランド独立戦争を描いたケン・ローチ監督の映画「麦の穂をゆらす風」の冒頭シーンは衝撃的だ(毎日新聞“EU旗をゆらす風”福島良典)。

Photo_22
 これより30年以上前にアイルランドの惨状に同情した明治人がいたのです。『佳人之奇遇』の著者東海散士・柴四朗です。
 散士は「佳人之奇偶」第2編で、アイルランドの農村でイギリス兵の略奪と暴行を描いています([愛蘭惨状ノ図])。
 19世紀のアジアに押し寄せるヨーロッパの強国と明治日本、その現状を見るととても他人事とは思えなかったのでしょう。
 言論取締りがあり、表現に制約がある社会なので当時はやりの政治小説の形をかりて人々に警告したのです。この編に序をつけているのは土佐の後藤象二郎です。
 ちなみに『佳人之奇遇』第2編の内容は以下のよう

                 『佳人之奇遇第二編

 

Photo_2   物語は第1編でアメリカ・インデペンデンスホールで主人公東海散士が二人の美女と知り合う。
 再会を約束したが、スペインの美女幽蘭は自由政治を実現しようとして逆境になる父を助けるためスペインに旅立つ。もう一人アイルランドの美女紅蓮と清国の志士もそれに同行する。

 残された散士はある日、フランクリンの墓に詣で一人の紳士に出会った。紳士は散士にポーランド独立のためにロシア・プロシャと戦って敗れた高節公(コシューシコ)の話をし、ポーランド滅亡の歴史を語ってきかせた。

 またある日、散士はニュージャージー州にいる紅蓮の同士、アイルランド独立運動指導者パーネル(実在の人物)の妹を訪問した。パーネル女史は散士に

イギリスのアイルランドに対する虐政」を語り、奮起して国の独立を実現したいという女史に感動してフィラデルフィアに戻った。それから間もなく女史が急死し散士はパーネル女史を惜しんで墓参りにいくと、墓前にスペインに向かったはずの紅蓮がいるではないか・・・物語は第3編につづく

 

  物語中でアイルランドの美女紅蓮が展開するアイルランド論は殆どが経済間題である。
 柴四朗の蔵書に英文のアイルランド史関係があり、二冊ともアイルランドが自由貿易政策のため貧困にあえいでいる様を詳説している。四朗は当時わが国では入手不可能な資料を見て「アイルランドの惨状」を描いたのである。
 四朗はそのようなアイルランドを説明することで、自由貿易論を批判し、日本の対外政策について列強の脅威を説き、保護貿易政策を主張した。(『明治の兄弟 柴太一郎、東海散士柴四朗、柴五郎』第2部より)

 写真資料『解説佳人之奇遇』(著者柴四朗・解説者平泉澄  時事通信社)より

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