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2010年3月12日 (金)

死せる諸葛(孔明)生ける仲達を走らす

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 バンクーバーオリンピック“男子フィギュア・日本初メダル”高橋大輔選手の笑顔が新聞一面を飾った日、毎日新聞夕刊トップは「死せる曹操人民走らす」であった。
 中国では魏(曹操)・呉(孫権)・蜀(劉備)が覇を競った三国時代の英雄、曹操のブームがゆかりの地で過熱しているという。「曹操の墓発見」がきっかけで人口2000人のどかな農村に観光客が押し寄せているらしい。そこで「死せる曹操が人民を走らす」。


 もとの諺は「死せる諸葛生ける仲達を走らす」でご存じ蜀(しょく)の軍師・諸葛孔明(しょかつこうめい)と魏(ぎ)軍の司馬仲達(しばちゅうたつ)との戦いでのこと。
 蜀軍と魏軍が?山(きざん)で対峙中、たまたま大きな星が赤く燃える尾を引きながら五丈原にいる蜀軍の上に落ちた。死が近いことを悟った孔明は病める身を起こして、自分の死を魏軍にわからせまいと策略をねった。
 孔明の等身大の座像を車に乗せて、いかにも彼が陣頭指揮をしていると見せながら、全軍を退却させるよう命じた。引き上げの準備に狂奔しているのを知らされた仲達は、時機到来と五丈原へ総攻撃に火ぶたを切った。しかし蜀の陣営に人影はなく仲達は先頭に立って追いかけた。
 すると前方の山かげから蜀の旗が見え、勇ましい陣太鼓が響いてきた。その上車上に指揮をとるのは、なんと孔明ではないか。まさに蜀軍の押し寄せんとする勢いに、仲達は思わず逃げ出した。

 これをみた民衆は死後なお輝く孔明を讃え、仲達の臆病を笑った。しかしこれを聞いた仲達は「生きている孔明の策略はわかるが、死んだ孔明のはわからないさ」と言ったという(『中国故事物語』)。

 日本ではこの場面を「荒城の月」でおなじみ土井晩翠が詩にしている。
「星落秋風五丈原」(ほしおつ しゅうふう ごじょうげん)と題し「嗚呼陣頭にあらはれて/敵とまた見ん時やいつ/山の嶺に長駆して/心は勇む風の前・・・」と漢文調で「巧妙いづれ夢のあと/消えざるものはただ誠」とうたいあげる。

 『三国志演義』は抄訳、完訳いろいろでているが、なんといっても平凡社の中国古典文学全集で読むとおもしろい。分厚くて長いが物は考えよう、三国志の世界にずーっと浸っていられる。

      ***********

2020.6.29 記
毎日新聞 <悼む>
井波律子さん 中国文学者 肺炎のため 5月13日 死去・76歳
「素人にやさしい案内人」
    この記事を読んで、見出しのとおり井波さんの「案内書」はほんとうに判りやすく、「やさしい案内人」その通りだと思った。好きで読む分には判らないところは飛ばして差し支えないが、それでもいい案内があれば、物語をさらに愉しめる。

 

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