『桃尻語訳 枕草子』橋本治
このごろ哲学者ニーチェの本が売れているそうだ。ニーチェ=難解というイメージだが親しみやすい翻訳をえてヒットしているそう。毎日新聞の本紹介(鈴木英生)によれば白鳥春彦編訳『超訳ニーチェの言葉』が40万部に迫るほど売れているという。
内容はニーチェの著書から魅力的な文章を抜粋し、現代の日本人に親しみやすい言葉に例えば「死ぬのは決まっているのだから、ほがらかにやっていこう」といったものらしい。
「超訳」という言葉で『桃尻語訳 枕草子』(橋本治)を読み、清少納言が身近に感じられたのを思い出した。確かな下地があるからどんなに崩しても原作者の意図がちゃんと伝わり、訳と相まっておもしろかった。「超訳ニーチェ」は未読なので古くて申し訳ないが10年前紹介した枕草子を。
『桃尻語訳 枕草子』(上 中 下) (橋本 治 河出書房新社)
ミレニアム2000年、せっかくの千年紀みんな先を考えるでしょう。先を見通せないので「いっそ千年後戻り」これはいいと思ったところ、人の考えは似たようなもの。近ごろ『枕草子』『源氏物語』が取り上げられています。千年昔といえば
「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」藤原道長が権勢を誇った平安中期、王朝文学華やかりしころです。
道長の兄の娘が一条天皇の中宮(妃)定子、清少納言はこの宮の女房でした。定子が後ろ楯を失ってから、同じ天皇の中宮になったのが道長の娘彰子、紫式部はこちらで女房勤め。
桃尻語訳では女房をキャリアウーマンと読みます。清少納言たちは、千年前のキャリアウーマンというわけです。そのキャリアウーマンのエッセイが有名な、しかし読みきる人が少なそうな国文学『枕草子』。それを「難しいからって避けないで、読んでね」とエッセイ『枕草子』として身近に引き寄せたのが桃尻語訳です。
春って曙よ!
だんだん白くなってく山の上の空が少し明るくなって、
紫っぽい雲が細くたなびいてんの!
夏は夜よね! 月の頃はモチロン!
闇夜もねェ・・・・・・。蛍が一杯飛びかってるの。
あと、ホントに一つか二つなんかが、ぼんやりボーッと
光ってくのも素敵。雨なんか降るのも素敵ね。(第一段)
「子供はねェ、ヘンテコリンな弓や長い笞みたいなもんを
振り回して遊んでるの。すっごく可愛い。車なんか止めてさ、
抱き入れてもみたいしさ、欲しいなあってとこもあんの」(第五十六段)
素敵・すっごく・ホント、感じが伝わるけれど十二単に似合わない。それは若い娘のおしゃべり話し言葉だから。 [註]もこの調子。「狩衣」はスポーツウエア「普段の時に着る直衣が背広だとするんならさ、それよりもっとくだけたブルゾン、ジャンパーの感じね」。
イラスト付親切丁寧な註を楽しみながら、千年昔の暮し装い、雪月花に歌枕、喜び畏れまた宮中の行事に呼ばれてみませんか。
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2019平成31年1月29日 “橋本治さん死去” 70歳。
私が初めてその名前を知ったのは、大学紛争に揺れる東大駒場祭のポスター
「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへいく」
のコピーが評判になってである。
『桃尻語訳 枕草子』はほんとうにおもしろかった。古文の授業もこれを副読本にすればいいのにと思う。
人生100年の時代、まだまだ活躍できたでしょうね。惜しい。
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