寺田寅彦、大塚楠緒子
「生活を快適にする目と脳の活性法・藤川陽一」講座に付き合いで参加したが、情けは人のためならず、何かと刺激を受けておもしろい。ある日、速読のテキストが寺田寅彦だったので、帰宅して本棚にある文庫本を取り出してみた。パラパラめくっていたが気が付いたら座り込んで読みふけっていた。
その『寺田寅彦随筆集』第3巻(岩波)の「読書の今昔」で大塚楠緒子の名を見つけた。
大塚楠緒子(くすおこ・なおこ)、今はあまり知られてないが日露戦争の当時詠んだ「お百度詣で」は有名、与謝野晶子の「君死にたもうことなかれ」とともに反戦の歌として並び称されている。その嘆きは今も過去になどなってない。戦争が止むことはないのだろうか。
寅彦は「夏目漱石先生の追憶」で、漱石が絵はがきを書いて親しい人に送っていた、大塚楠緒子とも絵はがきの交換があったと記している。
楠緒子の夫・大塚保治は東大の美学者で漱石の教え子であるが、楠緒子は「漱石の初恋の相手」とも伝えられる。漱石と楠緒子、二人がやりとりした絵はがきを見てみたい。
ときに、樋口一葉は貧しい暮らしにもめげずは作家として自立しようと苦労しつつも珠玉の作品を生みだして早世した。これに対し大塚楠緒子は恵まれた家庭の妻として小説を書き、翻訳、作詩をすることができた。美貌でも知られている楠緒子だが早く36歳で没した。
棺には菊抛げ入れよ有らん程
訃報を聞いた漱石が手向けた句である(『現代日本文学大系5』月報・明治の女流作家/井上百合子)。
お百度詣で
一足踏みて夫(つま)思い
ふたあし国を思えども
三足ふたたび夫思う
女ごころに咎ありや
朝日に匂う日の本の
国は世界に只一つ
妻と呼ばれて契りてし
人はこの世に只ひとり
かくて御国と我夫(わがつま)と
いずれ重しととわれなば
ただ答えずに泣かんのみ
お百度詣でああ咎ありや
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