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2010年11月21日 (日)

智恵子は東京には空が無いといふ/高村光太郎

 新宿駅近く都庁方面の交差点にたって信号待ち、どこを向いてもビルばかり。ビルは高かったり低かったり、中にはしゃれた外観のもあるけど、ビルの谷間の空は四角い。
 青信号になって横断歩道を渡りながら「東京の空は四角い」というフレーズが浮かんだ。渡りきったところで「智恵子抄」の一節を想い出した。
 ビルだらけの直線的な街頭で昔読んだ詩を想ったのは、並木が黄葉してるからかな。それより連れ合いが体調を崩しているからか。
     ~~~~~~~~~~~~~~~

     あどけない話

 智恵子は東京には空が無いといふ、
 ほんとの空が見たいといふ。
 私は驚いて空を見る。
 桜若葉の間に在るのは、Photo_4
 切つてもきれない
 むかしなじみのきれいな空だ。
 どんよりけむる地平のぼかしは
 うすもも色の朝のしめりだ。
 智恵子は遠くを見ながら言ふ、
 阿多多羅山の上に、
 毎日出てゐる青い空が
 智恵子のほんとの空だといふ。
 あどけない空の話である。
              

      日清戦争

 おじいさんは拳固を二つこしらえて
 鼻のあたまに重ねてみせた。
 ――これさまにちげえねえ。――
 原田重吉玄武門破りの話である。
 ――古峰が原のこれさまが
 夜でも昼でも往つたり来たり、
 みんな禁廷さまのおためだ。
 ありがてえな、光公。――
 わたしはいつでも夜になると、
 そつと聞耳を立てて身ぶるひした。
 たしかに屋根の上の方に音がする。
 羽ばたきの音が。
            *禁廷様:天皇の敬語。

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