愛誦の楽しみ、土井晩翠(宮城県)
新聞その他コレと思ったのは切り抜く癖があるが、ソレが行方不明というお粗末なことがたびたびある。先日も落合直文(父は仙台藩士)作「孝女白菊の歌」について、白菊の父は西南戦争に云々というのがあったはず・・・・でも見つからない。中高生のころ頂いた本、修養全集『修養文藝名作選』(昭和4/大日本雄辯講談社)に落合直文の《孝女白菊の歌》がありお気に入りだった。土井晩翠《星落秋風五丈原》も載っていて好きだった。
「修養全集」とはいかにも戦前、刊行月1929昭和4年3月の事項をみると「衆議院、治安維持法改正緊急勅令事後承諾」、7月には「政府、張作霖爆死事件の責任者処分発表」とある。全集はその時代に読まれた、又は推された著作者を網羅しているかのようだ。意外な名前もちらほら見えるので作者名のみピックアップ。
小説―――国木田独歩・菊地幽芳・武者小路実篤・櫻井忠温・加藤武雄・菊池寛・和気律二郎・滝澤馬琴・三浦修吾・尾崎紅葉・村上浪六・豊島與志雄・樋口一葉・芥川龍之介・福永渙
挿絵―――小村雪岱ほか11名
戯曲――岡本綺堂・坪内逍遙・松居松翁・佐藤紅緑・幸田露伴・山本有三・林久男・倉田百三
挿絵―――本田穆堂ほか6名
詩文―――中村幸也・川路柳虹・花園緑人・土井晩翠・千家元麿・正富汪洋・落合直文・野口雨情・森鴎外・時雨音羽・西条八十・福田正夫・生田春月・白鳥省吾・税所敦子・北原白秋・金子光晴・徳富蘇峰・大庭耶柯公・荻原井泉水・相馬御風・鶴見祐輔・五十嵐力・竹越三叉・正木不如丘・和田垣謙三・新渡戸稲造・永田青嵐・三宅雪嶺・大町桂月
書簡―――和宮・山縣有朋・木村重成の妻・後藤秀子ほか
漢文・漢詩―――諸葛亮(孔明)・李密・頼山陽・吉田松陰・佐原盛純・野田笛浦・木戸松菊・斎藤監物・梁川星巌・物徂徠・西郷南洲
琵琶―――勝海舟・吉水経和・阪正臣・今村外園・高松春月
義太夫―――近松門左衛門・竹田出雲
挿絵―――井川洗崖ほか12名
土井晩翠といえば「荒城の月」だが、『三国志演義』上下(平凡社・中国古典文学大系)の愛読者なので、「星落秋風五丈原」を愛唱した。
祁山悲秋の風更けて 陣雲暗し五丈原
零露の文は繁くして 草枯れ馬は肥ゆれども
蜀軍の旗光なく 鼓角の音も今しづか
丞相病あつかりき(後略)
各章末の繰り返し“丞相病あつかりき”を声にするたび、丞相・諸葛孔明を思いやりウルウル。今どき、明治の詩歌を愛誦、暗唱する人いるだろうか。夏目漱石や森鴎外が現代語訳されるほどだから滅多にいないかも。
土井晩翠(1871明治4~1952昭和27) 家は代々の富裕な質屋。
父は和歌や俳句の嗜みがあり、晩翠はこの父から「水滸伝」また「日本外史」四書五経の素読を教えられ文学に目覚めていった。晩翠の西洋の窓となった一つが日刊新聞『自由の燈』とも。
斎藤秀三郎の仙台英語塾(当ブログ2012.5.20明治・大正期の英語学者)、第二高等中学校で六年間、東京大学英文科。島崎藤村とならぶ詩人として注目され藤村とは対照的に、漢文脈の雄渾な詩風と思想詩的内容で青年の心をとらえた。
1901明治34年、晩翠作詞、滝廉太郎作曲「荒城の月」ができた。この年、晩翠は私費でヨーロッパ外遊、帰国後、二高教授となる。
著作『天地有情』『イーリアス』(訳詞)ほか。「荒城の月」詩碑:仙台城址、会津若松城址。
芸術院会員、文化勲章受章、仙台名誉市民。
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