« 進取の女性、相馬黒光(宮城県) | トップページ | (幕末明治)学者の気風、西と東で違いそう »

2012年9月29日 (土)

「社会」sosietyを持たない人々の翻訳法、柳父章

 先日『横書き登場』―日本語表記の近代―を紹介したが上手く表現できなかったので心残り。言い訳すると好きなものほど入り込んでしまい、どこもかしこも捨てがたく纏めることができない。半端だったなあとくよくよしてるとき歴史好きに行き会い、『横書き登場』をすすめた。口でなら「近代では横書きって事件だったのよ」からはじまっていろいろ言える。「では、読んでみる」と彼女。そして、彼女からも『翻訳語成立事情』を紹介され、すぐに読んでしまった。
 自分にとっては、屋名池誠先生が国語学の授業でふれられた、幕末明治の翻訳についてが下地になった。学問的なところは目がすべったが少しは理解できた。

 『翻訳語成立事情』(柳父章・岩波新書)は、西欧におけるような概念がまだないことばを日本語にする苦労や工夫、理解され定着するまでの道筋、ほんとうに原義どおり伝わる日本語になっているか等など、10の単語について詳しく述べられている。はじめのことばが、表題の「社会」である。
 今では「社会」は、学問など書物はもちろん新聞・雑誌・テレビなど至るところで使われている。深く考えることもなく気軽に「社会がどうの、こうの」と話したりもする。ところが、明治のはじめには「sosietyにあたる日本語はなかった」から、たいへん翻訳の難しいことばだった。

  sosietyに相当する日本語がなかったということは、その背景に、sosietyに対応するような現実が日本になかったということである。

 この「社会」は1877明治10年年代以後、使われるようになって今にいたっている。しかし、「社会」という訳語が造られ、すぐにsosietyに対応するような現実の日本になったわけではないと著者・柳父章(やなぶあきら)はいう。
 「社会」が定着するまで歴史、翻訳者らの苦労を日本最初の蘭和辞書、オランダ語の辞書『波留麻和解』からはじまり、英語、フランス語など当時の辞書を引き比べて詳しく説明。
 オランダ語の辞書など教科書の中でしか知らなかったが、実用書籍なのを実感した。ほかのことばもなかなか興味深く明治の一端が垣間見られ、明治文学を読むのにも役立ちそう。「社会」のほかは次である。

個人―――福沢諭吉の苦闘。  
近代―――地獄の「近代」、あこがれの「近代」。
美 ―――三島由紀夫のトリック。  
恋愛―――北村透谷と「恋愛」の宿命。
存在―――存在する、ある、いる。  
自然―――翻訳語の生んだ誤解。
権利―――「権」、権力の「権」。  
自由―――柳田国男の反発。
彼、彼女―――物から人へ、恋人へ。

|

« 進取の女性、相馬黒光(宮城県) | トップページ | (幕末明治)学者の気風、西と東で違いそう »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「社会」sosietyを持たない人々の翻訳法、柳父章:

« 進取の女性、相馬黒光(宮城県) | トップページ | (幕末明治)学者の気風、西と東で違いそう »