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2013年4月20日 (土)

かつて図書館(書籍館)に求覧券・閲覧券

 ちかごろ国語辞書が話題だ。辞書に個性があると知ったのは点訳の先輩に「古い辞書も大切」と言われてからである。点字はひらがなの分かち書きのようなもので漢字の読みは大切、なるべく原本に合ったその時々の辞書がいい。そんな事もあり読み方、語釈もさることながら辞書そのものに目がいくようになった。
 また、言葉は変化する。ある言葉が誤用だとしても世間一般が使い周知すれば新語、造語として取り入れる辞書もある。だから辞書は何冊もあった方がいい。しかし個人でそろえるには限度があるから図書館を頼る。
 図書館には国語辞書に限らず歴史・地理・外国語・その他辞書があり、もちろん多様な分野の本があり見放題、しかも無料である。わざわざ無料といったのは、閲覧さえも限られた人間しかできなかった時代があり、閲覧料金が必要な時代があったのだ。

 明治20年代(1887~1896)は、日本における新しい文学の開花時期であり、雑誌の発行も盛んだった。『女学雑誌』などの婦人雑誌、『早稲田文学』・『志がらみ草紙』(森鴎外)など文学誌、哲学・宗教『六合雑誌』、『少国民』(石井研堂)・『少年園』(山県悌三郎)など少年雑誌も人気があった。
 古い雑誌は近代デジタルライブラリーhttp://kindai.ndl.go.jp/ で読めるので、“図書館(書籍館)”を検索したら、少年園発行『東京遊学案内 明治25年』1892黒川文淵・編<各書籍館一覧>があった。次は【東京書籍館】の項より

 本館は上野公園緑樹鬱蒼たる閑天地に在りて、十二万六千冊の和漢洋書を蔵し、其毎年の閲覧人員四万八千に余れるを見ても、読書社会に尠からぬ利益を與ふること知るべきなり。
 凡そ本館の図書を借覧せんとする者は、左の求覧券の内一種を購求して登館すべし。
但し十五歳に満たざる者には、本館蔵書の内通俗なるものを *大日本教育会に貸与して、その付属の書籍館に於て閲覧せしむることとせり。

 尋常求覧券 一回分 一枚 金2銭、 十回分 一枚 金12銭
 特別求覧券 一回分 一枚 金5銭、 十回分 一枚 金30銭

 特別閲覧人は閲覧所内の別室で通常閲覧人の3倍、和装書30冊、洋書は7冊閲覧できるとある。かの樋口一葉も東京書籍館に通ったようだが、閲覧回数券を購入したのだろうか。ちなみに『東京遊学案内』は地方の少年らの受験案内のようで人気があったらしく版を重ねている。

 *大日本教育会: のち帝国教育会。会長・辻新次(長野県・教育行政家、歴代の文相を補佐し明治期学校教育の基本体制確立に貢献)。大日本教育会書籍館も閲覧料は東京書籍館に同じ。

Photo

福島県『会津若松市立図書館百年誌』(野口信一・2004平成16.10.8)に「閲覧回数券の発行」の項あり、「閲覧料徴収簿・収入簿」の写真と説明がある。以下参照すると

―――1899明治32年図書館令公布。図書館行政の基本を規程、その第7条に「図書館は閲覧料を徴収することを得」とあり、会津図書館では閲覧料、館外貸出料を取った。
 図書の閲覧券は1回1銭。1905明治38年から回数券を発行(10回分8銭)。

 なお学生および現役兵はこの半学。図書館評議会や市長から許可を与えられた者や金品の寄付者には優待券が発行された。前出の東京書籍館の閲覧料からすると半学で安いが、7年の隔たりがあり単純に較べられない。
 会津図書館にも優待閲覧室があり、その2階窓から会津鶴ヶ城が眺められた。館外貸出も行われたが本は貴重品であり、優待券持参者、市立学校教員などに限られ、教員は教育書に限り無料であった。ほかに優待券保持者の保証がある者は1回5銭で借りられた。

 今や図書館の蔵書は自宅パソコンで検索でき予約もできる便利な時代、閲覧料が必要な頃とは大違い、隔世の感がある。筆者の活字中毒症状は薄れつつありもうちょっと読まないと。

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