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2015年7月 4日 (土)

南部椀、浄法寺村天台寺(岩手県)

Photo 昔ながらの南部鉄瓶、わが家にもあるが、IHヒーターを使いガスレンジがなく今は使ってない。鉄瓶で湧かしたお湯は美味しいが、直火がないので仕方ない。趣きがあり鉄分もとれる鉄瓶なのに、暮らしが変わり使えない。
 たまたま、古い時代の工芸の本『工芸志料』のページを繰っていたら「南部椀」というのがあった。名産品なのだろうが聞いたことがない。使う人がなければ、記録に残るほどの名産品でも遺らない。そう感じただけで調べようとは思わなかったが、「塗り」「漆器」でなく「椀」というのにひっかかり、「南部椀・南部塗」の項を読んでみた。次はその引用、

 ――― 高倉天皇の御宇、陸奧の南部の工人漆器を製す。これを南部椀という。
 ――― (南部塗) 赤塗のもの多し(六、七百年前に造る所の南部塗の漆器今なお存す。或いはいう、高倉天皇御宇 陸奧守藤原秀衡、工人に命じて創めて製しむる所のものなり、故に此の器を称して秀衡椀という)。

 南部椀と称するものは、内は朱色にして外は黒色なり。また黒漆の上に朱漆を以て鶴、花卉を画き、金箔を付着し、その朱色煒燁(いよう・かがやく)なり・・・・・・ また江差郡の禅宗一派の総本山の正法寺椀というあり。
 南部椀は陸奧の浄法寺村より出づ、同郡畑村にて椀を作り、田山村にて漆を塗る・・・・・・ この地みな南部氏の管たりしをもって南部椀と称せり・・・・・・
        (『増訂 工芸志料』黒川真賴・(校注)前田泰次1974東洋文庫)

 南部椀の産地、浄法寺村にある都から遠くはなれた陸奧の天台寺は、聖武天皇(701大宝1~756天平勝宝8)の勅願所であり、観音堂には奈良時代の僧・行基(668天智7~749天平勝宝1)の手になる聖観世音の立像が安置されている。
 図は、1941昭和16年『岩手県産業と名勝』(岩手県書籍雑誌商組合)から、上方に記した赤印が浄法寺村。下方右に「高田松原」があり奇蹟の一本松が思い起こされるが、それも枯れた。東日本大震災による甚大な被害、少しでも早い復興を願うばかり。

 天台寺は1200年以上昔に開山され、創立間もなく、天台寺坊中で食器・食膳を製造するものがあり、登山者に珍重され、祭礼毎に参拝者が購入し世間に「御山食器」として知られるようになった。高倉天皇の1169嘉応年間に奥州塗として京に伝わり、のちに南部塗、模様を南部模様と呼んだ。

 時代が下がると村に製造業を移し、次第に販路が拡張された。天台寺の例祭のときは、境内の一画を御山御器販売の露天専用とし、漆器商店が立ち並んだ。
 明治維新前後に至るまで、東海岸地方からも参拝者があり購入しない者はなかった。その当時、浄法寺村に漆器製造家は数十戸あり、商人は天台寺の祭日のみならず、三戸郡櫛引八幡の祭日などに売店をだし、盛岡、仙台、東海岸、北海道にも販売した。しかし、維新後は会津、秋田産に圧倒されて販路を縮小せざるを得なくなり製造者もいなくなった。 

 ところで、立派に創建された古刹も幾星霜をへれば廃れ傷む。南北朝のころ、南部守行が天台寺を再建した。それ以来、代々の南部藩主が天台寺の修繕につとめ、寺領30石を与えられていたが、明治維新の改革で制度が一変、大災難に見舞われた。
 1870明治3年12月、社寺調査が布告される。当時、二戸郡は江刺県(青森県)の管轄であった
 翌4年、江刺県の役人と神主がきて、1町内外を境内として残りの3万数千坪を没収し官林に編入した。月山の1社のみ村社に改め他の神社仏堂、観世音堂をはじめ並列する薬師堂以下40余の堂宇ことごとくを壊した。安置していた神体仏像は外に出し焼却。仁王力士像は焼けなかったので斧で破壊というすさまじい乱暴狼藉であった。
 当時の住職泰秀は僧たちと相談して夜陰、山中に潜み、隙を窺って聖観世音、十一面観音や毘沙門天などを持ち出して隠した。せめてもの不幸中の幸いであった。
 1902明治35年、天台寺は以前の境内地を還してもらえたが、破壊された堂宇や焼却された神体仏像の影すらなく、参拝者も減っていた。しかし、日清・日露の戦争時から再びお参りにくる者が多くなった。
     (『桂清水観音記』1915天台寺保存会)

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