からだの慣用句・故事
十年一昔、ブログ記事数がふえると忘れていることも多く、右列 “バックナンバー”をチェック、なるべく重ならないようにしている。さて、601回目は何にしよう。いつもなら、まず図書館だが休館では仕方ない。
積ん読をひっくり返すと『からだ語辞典』がでてきた。巣ごもりさなか、身体にまつわる語句探しは時間つぶしにいいかも。
例えば、石川啄木がじっと「手」をみれば文学になる。
はたらけど はたらけど 猶わが生活(くらし)
楽にならざり ぢつと手を見る
しかし、筆者がじっと手を見ても、無い知恵は絞れない。故事・名言辞典など見て、頭のてっぺんから足の先までみてみる。
<手>
手のように働く(働き手・人手・二手に分ける)。 単に人の意(売り手・買い手・話し手)。 能力が優れた人(旗手・選手・名手)。 腕前、技量(手八丁口八丁・手早い・手腕)。 「手練(しゅれん)の技」=熟練した巧みな手ぎわのこと。剣術にすぐれた人。 「手練(てれん)手管(てくだ)」=人をだまして思い通りに操る手際。 「手語」=琴の音(弾き手の思いが表現される)。 「手談」=囲碁。 「国手」=名医。 「国色(こくしょく)」=絶世の美人。 「人間の運命は人間の手中にある」=人間にはさまざまな可能性があり、さまざまな選択が迫られる。自分自身の責任において選びとっていくのが人間であり、人生というもの。運命を神にゆだねるわけにはゆかない(J・P・サルトル)
<頭>
釘の頭・鼻の頭。 「徹頭徹尾」=最初から最後まで。どこまでも。 「平身低頭」=恐縮、へりくだった態度で人に対するたとえ。 「羊頭を掲げて狗肉を売る」=店頭に羊の頭を掲げておいて、実際は馬の乾し肉をを売る。看板に偽りあり。 「頭のいい人に恋はできない」=盲目的な情熱に身をゆだねることができない理性の人(寺田寅彦)。
<顔>
顔は表で目立つ部分、面(おもて)ともいう。 「顔が立つ」=面目をたもつこと。 「面をさらす」=人前に顔(恥)をさらすこと。 「顔を売る」=世間に知られ有名になろうとする。 「顔が売れる」=有名になった。 「顔にかかわる」=自分の対面に響く。
<目>
「目からうろこが落ちた」=急に物事の真相がわかった。 「目にかける」=面倒をみる。 「目は毫毛を見れどもその睫毛を見ず」=目は細い毛すじまで見えても自分の睫毛は見れない。他人の欠点は見えるが自分は分からない(睫毛(まつげ)の語源は目(ま)つ毛)。
<眉>
「白眉」「愁眉」「柳眉」「眉山」まゆには中国からきた言葉が多い。 「眉間(みけん)」=まゆとまゆの間。 「焦眉の急」=眉を焦がしそうな急ぎの用事。 「眉に唾をつける」=だまされないように用心すること。 「眉唾もの」=疑わしい物。
<耳>
「耳を貸す」=相談に乗る。 「馬耳東風」=人の意見を聞き流す。元来の「馬耳東風は、李白の「王十二の寒夜に独酌して懐にありに答う」という詩にでてくる。友人の王十二が、自分の不遇を訴えたのに答えたもの。元来、武よりも文を重んじた国であるのに、今の世は、詩人の言葉に耳を傾けようとしないと。
<鼻>
「鼻の先智慧」=目の前のことしか考えない浅はかな知恵。 「木で鼻をくくる」=ひどく無愛想な態度。 「鼻っ柱が強い」=強情。 「鼻をあかす」=人を出し抜くこと。
<口>
「口あけ」=物事のはじまり。 「病は口より入り、禍はくちより出ず」 「口では大阪の城も建つ」=口先ではどんな事もたやすくできるように言う。
<舌>
「わが舌をみよ」=紀元前4世紀、中国の戦国時代。魏の張儀は、諸国を廻り歩き冤罪でむち打たれたが、身体がどんない痛めつけられようと、舌さえ健在ならば「自分の考えを述べるに役立つだけでなく、相手をおどし、おだてて取り入り、策略にひっかけ、思うつぼにひきづりこむ武器なのだ。舌は百万の大群より恐ろしい武器である」と。張儀は、この機能を遺憾なく発揮して秦に仕え、諸大国を引きずり回し、"連衡"の策(秦と6国各国と単独条約を結ばせ)秦を覇者をなさしめた。
<歯>
「豆腐で歯を痛める」=あるはずのないこと。 「切歯扼腕」=歯ぎしりして自分の手首をにぎりしめる。非常に悔しがる。 「白い歯を見せる」=笑顔、心を許すこと。
<髪>
「間髪(はつ)を入れず」=間に髪の毛一筋も入れることができない、非常に急なこと。危機一髪は誤用。 「女の髪の毛には大象もつながる」=女性の髪の強さをいいながら女性の魅力をいう。 「毛並み」=動物の種類、性質、血統、家柄、育ち、学歴など質のこと。 「白髪三千丈」=老いの身の悲しさを歌ったものとして、又、大げさな中国式の表現として、古来よりよく人の口にのぼった。李白『秋浦吟』17首中の1首。
白髪三千丈 憂いによりて かくのごとく長し
知らず明鏡のうち 何れの処にか 秋霜を得たる
<首>
首位・首長・首都・首府・首席・首謀者・主唱者。 「首尾一貫」=初めから終わりまで筋が通っている、最後までぐらつかないこと。 「首をすげ替える」=重要な役職についている人を更迭すること。
<つむじ>
つむじは、毛が一点に集中し、うずまきのようにはえているところ。 「つむじ曲がり」=性質がねじけていて素直でない。また、風変わりな性質の人。
<のど>
のど→飲み門(のみと)→のんど→のど。 「のどから手が出る」=ひどく欲しがること。 「美味ものど三寸」=おいしい食べ物でも、うまいと感じるのはわずかな間だけ。喜びや悲しみは、はかないものだということ。
<肩>
「肩をならべる」=横に並んで歩く、立つ。対等の地位に立つこと。気持ちを比喩的にいう場合も。 「肩をかす」=一緒にかついでやる。助力すること。 「運は肩次第」=人間の肩には、責任や義務など重い物が乗っているから、神様が乗っていても不思議ではない。
<腕>
腕は肩から手首まで。横に突き出たもの「かいな」ともいう。 「腕一本脛(すね)一本」=自分の体以外に頼るものがないこと。 「腕が上がる」=腕前や技量が上達すること。酒が強くなることもいう。
<肘>
ひじの漢字3種。肘(ちゅう)=腕の中ほど。 肱(こう)=かぎ型に張り出したとの意。 臂(ひ)=腕の外側の長い部分。腕。 「一臂の力」=少しばかりの助力。 「掣肘」=肘を押さえ込んで相手の動きを止める。他人の仕事の邪魔をすること。制肘とも書く。
<指>
遊び。指相撲(親指で相手の親指を押さえて勝負を争う)・ 指引き(指を引っ張り合う)・指人形(人形の形をした袋に指を入れて動かす)。 「指呼の間」=近い距離。時間が短い。 「指数」=物価。知能など数の変動。 「食指が動く」=何かをしたいときに気持ちが起こること。
<てのひら>
「掌紋」=手のひらにある皮膚の線。人の運命と結びつけて手相をみる。 「徒手空拳」=武器を持たないこと。 「怒れるこぶし笑顔に当たらず」=柔よく剛を制すること。
<胸>
「胸に当たる」=思い当たる。 「胸が合う」=心と心が通じ合う。 「胸が開く」=心が晴れる。 「胸に落ちる」=納得がいくこと。 「胸算用」=心の中でサッと見積もりをする。 「胸に一物(いちもつ)手に荷物」=心の中に何らかの企みをもつこと。
<心>
「あきらめは心の養生」=すんでしまったことは、いつまでも悩んでいないで、きっぱりと思いきることが心の健康によい。 「心の矢は石にも立つ」=集中して全力で行えば、どんなことでもなし遂げられる。 「女心と秋の空」 「男の心と川の瀬は一夜に変わる」。
<腹>
「腹がある人物」=物事に動じない人。 「腹がすわった人物」=覚悟ができた人。 「私服を肥やす」=不正手段で個人の利益をむさぼること。 「ほめられて腹立つ者なし」=人間関係を円滑にするには、ほめるに限る。 「鼓腹撃壌」(こふくげきじょう)=(中国、尭王の時世) 世の中がよくおさまり、人民が太平を愉しむさま。「日出でて作(はたら)き、日入りて息(いこ)う。井を鑿(ほ)りて飲み、田を耕して食う。帝力我に何かあらんや!」
日が出りゃ せっせと野良仕事、日暮れにゃ ねぐらで横になる。
のどの渇きは 井戸掘ってしのぐ、原の足しには田畑のみのり。
天子さまなぞ おいらの暮らしにゃ、あってもなくても おんなじことさ
<へそ>
「へその緒切ってから」=生まれて以来。 「ほぞ(へそのこと)をかむ」=後悔すること。
<きも>
肝は血液を浄化し、胆汁をつくる器官。胆は胆汁を貯える器官。いずれも、きも。 「肝胆相照らす」=互いに理解し合う。 「胆力」=ものに動じないこと。
<骨>
「人品骨柄」=人相・服装などに現れる人柄。 「気骨」=苦しみなどに屈しない気力。 「死馬の骨」=かつては抜群だったが、いまは何の価値もないもの。 「一将功なりて万骨枯る」=武勲に輝く将軍のかげに、また咲き誇る文化や政治のかげに枯れ果てる万骨、骨となって朽ち果てる、名もない何万の人がいる。
<皮>
「虚実皮膜の間」(近松門左衛門)=区別しがたい微妙な違い。 「皮をかぶる」=本性を覆い隠す。 「骨かくす皮には誰も迷いけり美人というも皮のわざなり」一休禅師。
<肌>
皮膚の表面、物の表面。また、性質気質を表す。学者肌。 「柔肌(やわはだ)」=おもに女性のやわらかな肌。
やは肌の あつき血潮に ふれも見で
さびしからずや 道を説く君
激しい青春賛歌、人間的性愛の肯定。明治という時代に、人間の精神と肉体の賛歌を高らかにうたってのけた与謝野晶子の勁さ、美しさ。
<背>
「背を向ける」=同調しないで逆らうこと。 「馬の背を分ける」=夕立の降るところと降らないところがある状態。馬の背の片側には雨が降り、片側には降らぬ状態。
<腰>
「腰抜けの居計らい」=体を動かさず、頭の中で計画する。おくびょう者の計画。
<つば>
「天を仰いでつばする」=人に害を与えようとして、逆に自分がその害を受ける結果になる。
<脚・足>
「脚光」=フットライト。 「千里の行は足下に始まる」=千里の長旅も足の下から始まる。
<しり・しっぽ>
「しりの穴が小さい」=小心で度量がない。他人の言動を大らかに受け入れられない。 「しりに帆をかける」=急いで逃げ出す。 「しり目にかける」=問題にしないこと。
参考: 『からだ語辞典』土肥直道1996騒人社 / 『中国故事物語』原弘1963河出書房新社 / 『中国名言集』原弘1963河出書房新社 / 『名言名句の辞典』1991三省堂 / 『ことわざの辞典』1991三省堂 / 『四字熟語の辞典』1991三省堂
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