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2022年4月23日 (土)

『日本画の道標』安原成美下図集

 用水縁の桜並木。つい先日まで華やかな桜色が今は青葉若葉、水面をわたる風も心地いい。俳句好きなら一句浮かびそうな好景、でもその方面はまるでダメ。
 かといって絵心もないが、絵を見るのは好き。見とれたり、ひきこまれ立ち尽くしたり愉しい。好きな色や線を見ていると、何がなし前向きになるから不思議。
 絵は、本のように何頁もなく一枚なのに。しかし、その一枚にかける心意気、精進努力は長い文章もきっと変わらない。ただ、絵も著述もその過程は傍目には判からない。『日本画の道標』は、その道筋を垣間見せてくれる。
 日本画を志す人にも、筆者のように楽しむだけの者にもいい。拙い紹介ながらお薦めしたい。                

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日本画の道標 -安原成美下図集-』(安原成美2022日貿出版社)

    ―――真っ白な画面を見つめ、今から描こうとしている日本画のイメージを頭の中で投影し、鉛筆を手に取って描き始める。何も描かれていない画面に鉛筆の先が触れる瞬間が私は好きです。日本画制作の第一歩である下図の描き出しと、その後の試行錯誤は、私にとって絵を描く悦びを感じる時です・・・・・。

    ―――下図を公開することは私の内なる部分を曝け出してしまうような感覚もありますが、自身への戒めともなるよう、ここでひとつの形にしました・・・・・。

 表紙の絵を愉しみ順に頁をくると、「栃ノ木の花」の絵がでてきた。
 トチノキといえば、栃木県の県の木、果実ドングリは食べられる。フランスの並木道のマロニエはセイヨウトチノキといい栃の仲間と聞いたことがある。
 トチノキはかなりの大木、見上げても葉の形はよく分からないが、葉の色は緑でしょう。
 ところが、下図集にある「栃ノ木の花」のトチの葉、何とも素敵で不思議な青色。
 その青は、絵の具を塗り重ねただけでは生まれなそう。

 “青”はどこから生まれ、どう再現したのでしょう。青いトチの葉のイメージはどう生まれたのか。前から気になっていたが、『日本画の道標』掲載「特別対談」で分かった気がする。それでますます安原成美の「青」が好きになった。

 好きと言えば、「線」も気に入っている。素人考えだが、安原成美の「線」は繊細なのに力強い。
 特別対談は、そうした色や線、これまでの道のり、日本画家としての生き様、これからの事、様々語られ興味深い。次はその一部。

 特別対談
 <美術評論家・山下裕二 × 日本画家・安原成美  目指すのは、応挙!

  ―――(山下) 本画にはどういう紙を使うんですか?
  ―――(安原) 雁皮紙や三椏紙(みつまたがみ)が多いです。線がきれいに伸びていくので、雁皮紙(がんぴし)は特に愛用しています・・・・・。
  ―――(山下) あなたの絵には美しいブルーがよく使われていますが、天然のラピスラズリは相当高価なのでしょう?
  ―――(安原) 15グラムで7千円、1瓶だと7万円くらいしますね。
  ―――(山下) それは大変だ(笑)。あのブルーは実際の葉の色とは全く違う、あなたの頭の中で変換された色ですよね。その発想は・・・・・。
  ―――(安原) *キジル石窟からの発想です。キジルの土色とラピスラズリ、緑青、白土と金色。その響き合いを絵にしたいと、訪れた時からずっと思っていました。栃の木をスケッチしていた時に突然、自分の中でキジルのイメージが繋がって、あの色の響き合いで描くようになったんです。
        ・・・・・・・・・  
  ―――(安原) 今やりたいことは、円山応挙の大乗寺の襖絵のような仕事です。空間を襖絵で囲むようなことをしたいし、六曲屏風とか大きな絵も描きたいです。
    
   本編掲載写真(割愛):*石窟から見たキジルの風景。鳴砂山(めいさざん)。敦煌莫高窟の西に広がるクムタグ砂漠の一部

     <おわりに>
  ――― 美しい構図や形を探るための下図は特に重要なプロセスですが、やはり人の目に触れることはありません。ですから本書の刊行は私にとって、新しい朝鮮となる貴重な機会でした。下図を公開することは私の内なる部分をも曝け出してしまうような感覚もありますが、自身への戒めともなるよう、ここでひとつの形にしました(安原成美)

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       下図刊行記念  安原成美
           2022.4.18(月)~ 4.27(水)
         TOKYO/靖山画廊
         東京都中央区銀座5-14-16 www.art-japan.jp
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     安原 成美
 1984昭和59年、埼玉県に生まれる。
 2010平成22年、東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。
 2012平成24年、東京藝術大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復日本画研究領域博士後期課程修了。博士号取得。日本美術院院友。

     受賞歴
安宅賞(東京藝術大学)受賞・卒業制作奨励賞。(東京医科歯科大学教養部)受賞・平山郁夫奨学金・(東京藝術大学)受賞・野村美術賞受賞・修了作品東京藝術大学収蔵・平山郁夫文化芸術賞受賞
 2019平成31年、山種美術館日本画アワード―未来をになう日本画新世代―大賞受賞。

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2022.4.23
   井上靖の『敦煌』を読んで以来、シルクロードに憧れがある。キジル石窟は敦煌に連なる。それを想うと、“キジルの土色とラピスラズリ、緑青、白土と金色からなる青” は、なお一層心に響く。

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